経理と会計の基礎知識

執筆担当

中嶋 徹(Toru Nakajima) 

中小企業診断士、ITコーディネータ、インキュベーション・マネージャ

 

プロフィール

1961年生まれ 青梅市出身
大学卒業後、地域金融機関を経て商工会議所勤務、現在はおうめ創業支援センター常勤。趣味はゴルフと家庭菜園。

 



第6回 創業者からの多い質問(2)

前回に続き、創業者から多い質問とその答えです。なお、今回で最終回となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<今回のテーマ>
1.領収書はもらっておくようですか?
2.扶養の範囲で起業したいのですが?
3.税金がよくわからないので不安です


1.領収書はもらっておくようですか?

Q:経費にするなら必ず必要ですか?

 

 

A:答えはシンプルです。「はい」

 

面倒でも、必ず領収書はもらってください。領収書がないものは、経緯にならないと思っていたほうがいいです。

 

ただし、次のようなものは例外として、青色申告に限り経費として認められます。
交通費としての切符
冠婚葬祭の現金、など

 

ただし、この場合でも、いつ、どこで何のために使ったものかなど、メモ書きでもいいので残しておきましょう。

2.扶養の範囲で起業したいのですが?

Q:(夫の)扶養の範囲で起業したいのですが、それって可能ですか?

 

扶養に残れるかどうかで、社会保険など多くの費用に影響が出てきますから、気になるところです。

 

 

A:ほかに収入がなければ、事業所得が38万円以下ならばOK

 

事業所得とは、売上マイナス経費の額です。

 

ほかに収入(給与収入)がある場合は、給与所得(給与収入マイナス給与所得控除)と事業所得の合計が38万円以下ならばOKとなっていますが、ここで税制改正があるため、最新の情報を得てください。



3.税金がよくわからないので不安です

Q:税金がよくわからないので不安です

 

税に関しては、誰でも漠然とした不安があると思います。

A:事業をすれば、たくさんの税金に出会いますが、必ず全部を収めるわけではありません

 

上図のように、その条件を満たす場合だけ納めることになっていますので、確定申告の際に照らし合わせてください。


まとめ

経営者にとって、経理処理は避けられません。それを専門家に依頼することは可能です。

しかし、経費がかかる、自分で理解しないと財務状況が把握できないといデメリットがあります。

個人事業であれば自分でできるので、儲かったら人に依頼してもいいでしょう。それまでは、知っている人に聞くのが一番です。



第5回 創業者からの多い質問(1)

起業をしようと考えたら、様々な疑問が出てきます。これをそのまま放置しておくと、損をしたり、不利益をこうむったりする恐れもありますので、早めに解決しておきましょう。

<今回のテーマ>
1.開業届を出すタイミングは?
売上と開業届の関係
出さないで困ること
2.これって経費になるのですか?
どこまでが経費として認められるのか


1.開業届を出すタイミングは?

Q:売上がいくらになったら、開業の届けをしなければいけませんか?

起業する方からよく質問されます。

 

 それに対する回答は

 

A:少額でも売上(所得)があれば、開業届を出して確定申告をしましょう。

 

です。

ただし、給与所得など他に収入があるならば、年間20万円までの利益であれば、開業届を出さずに確定申告もしなくてもいいことになっています。

 

所得税に関する申告は上記のとおりですが、市民税については「報酬」として利益を得た場合、金額に関係なく市区町村の窓口で申告をしなくてはならない場合もありますので、ご注意ください。

2.これって経費になるのですか?

Q:どこまでが経費として認められるのですか?

これもよくある質問です。

例えば誰かと食事をします。
仕事以外での食事は経費になりませんが、取引先との打合せを兼ねての食事は基本的には経費となります。

 

仕事で使う車は経費ですが、4WD車はどうでしょうか?ある測量士さんが、道路が舗装されていない山の中での仕事が多いので購入した場合は、経費になる可能性が高いでしょう。

 

コンサートや映画のチケット代はどうでしょうか?自分の楽しみのためだけであれば経費にはなりません。しかし、音楽や舞台関係者の方が勉強のために情報収集をする目的で行くのであれば経費になる可能性はあります。

ですから、

A:事業のために必要なものであれば、ほとんどすべて経費になります。

というのが答えです。



第4回 確定申告までの流れ

起業したら避けては通れないのが確定申告です。面倒で厄介なイメージを持つ人が多いですが、慣れてしまえばそれほど難しいものではありません。今のうちに全体像を掴んでおくことをお勧めします。

<今回のテーマ>

1.大まかな流れ
2.税務署に提出するもの
3.自分で保管するもの


1.大まかな流れ

個人事業の場合、1月~12月が会計期間として定められており、1年間の売上、経費などを自分で計算します。計算結果は、翌年の2/16~3/15の間に税務署へ申告します。これを確定申告と呼んでいます。

 

計算した結果、税金(所得税)を納める場合は3/15までで、自動振替は4月下旬になります。

確定申告をしたからといって、必ず納税義務が発生するわけではありません。場合によっては、収めすぎた税金が還付される場合もあります。


なお、確定申告をすべき人がしないでいると、ペナルティーとして重加算税を徴収される場合もありますので、売上の大小に関わらず必ず申告はしましょう。

 

2.税務署に提出するもの

確定申告では、税務署に提出するものと提出はしないが自分で保管しておくものがあります。

代表的な提出するものは次の4つです。

①申告書(2ページ)
②決算書(4ページ)
③源泉徴収票(あれば)
④控除証明書など(〃)

このうち、①と②は会計ソフトを使えば、事前に必要なデータを入力することで、ボタン一つで印刷できます。

 

また③は所属先の会社や委託された会社などから年末または年始に送られてくるものですが、送られてこない場合はこちらから請求しておきましょう。

④も通常は保険会社などから送られてくるものですので、必要に応じて添付して提出します。

3.自分で保管するもの

自分で保管するものは主に次の4つです。

 

①領収書
②帳票類(元帳など)
③会計データ
④その他の証拠書類

 

こうした書類は税務署へは提出しませんが、7年間もの長い間、自分で補完する義務があります。

 

そのため、レシートなどはコピーをしたり、文字が空気に触れないように工夫しないと消えてします恐れがありますので、注意が必要です。

 

会計データについては、電子媒体のほかに、紙に印刷して年度ごとに保管しておくと安心です。



第3回 帳簿整理

会計処理の一歩目は、帳簿の整理です。この整理ができていないと、決算のときに時間がかかったり、間違いを起こしやすいので、日頃から書類を貯めないように、しっかりと整理しておくことが重要です。

<今回のテーマ>
1.起業したら帳簿の整理
具体的な整理方法
2.起業前から準備しておくこと
今のうちにできることをしておく


1.起業したら帳簿の整理

以下の4つについて、具体的な方法を説明します。

①領収書の整理
②売上伝票(レシート)の整理
③メモ書き(備忘録)を活用する
④会計ソフトで取引を入力する

①領収書の整理
経費で処理したいならば、必ず領収書はもらっておきます。ただ、もらいっぱなしにすると、それが徐々に貯まっていくため、できるだけためないで処理しましょう。具体的には、経費科目ごと、発生日付順にノートなどに張っていき、余白にはいつ、どこで、誰に、何を、なぜ支払ったのか記載しておくとあとで確認するときに便利です。

 

②売上伝票(レシート)の整理
レジスターを使っていなければ、自分で売上伝票を記載して、これを発生日順に整理します。売上伝票は、数が少なければ複写式の伝票が市販されていますので、控えが残り便利です。

 

③メモ書き(備忘録)を活用する
とくに飲食店で受け取る領収書を経費として計上するのであれば、相手方の氏名や用件などを予約や裏面に記載しておきましょう。また、電車賃、バス代、冠婚葬祭の出費に関しては、相手から領収書をもらえないことが一般的です。その場合は、自分のメモでもよいので、交通費であれば日付、用件、乗り物種別、区間、金額を書いて領収書代わりに利用します。

 

④会計ソフトで取引を入力する
ノートなどに整理ができたら、順次会計ソフトに入力します。会計ソフトを利用すれば、ボタン一つで決算申告に必要な書類が印刷できます。

最後に、整理した書類や会計ソフトで打ち出せる帳票類(仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳など)は7年間保存する義務があります。

2.起業前から準備しておくこと

①事業用の通帳を分ける
個人事業の場合、プライベートと事業の境目がハッキリ区別できなくなりがちです。区別するには、通帳は分けて持つようにしましょう。


ただし、屋号の付いた通帳を作る場合は、起業の際に税務署に提出する「開業届」の控えを銀行に持っていかないと作成してくれませんので、起業前に準備することはできません。

 

②事業のための支出とプライベートな支出に分ける
預金通帳と同じですが、物を買うときに一緒に購入してしまうと、事業用をあとで区別するのが大変です。


面倒でも購入時に、会計を分けて精算することをお勧めします。そのため、今からそのような癖を付けておきましょう。

③領収書やレシートを保管する習慣を付ける
領収書がないものを経費として処理することは基本的にはできません。もらった領収書を紛失しないように大切に保管する習慣をつけておきましょう。



第2回 起業前から準備すること

経理と会計は、基本的には起業してからの作業ですが、起業してから慌てないためにも、起業する前から準備できるものはしっかりとしておきましょう。

<今回のテーマ>
1.日商簿記3級程度の知識を習得
知識がないと混乱するもの
2.実務で必要なフォーマットに慣れる
事前に慣れておく


1.日商簿記3級程度の知識を習得

一つの目安として、日商簿記3級程度の知識を持ち合わせてください。検定試験に合格しろということではありません。あくまでも準じた知識を持ってくださいということです。理由は、その程度の知識がないと混乱したり、ミスを見逃す恐れが高いからです。具体的には、次の3つは知識がない人が混乱する代表的なものです。

①減価償却
②貸借対照表
③発生主義

 

①減価償却
例えば、現金100万円で営業量の車両を買った場合、車両は経費ですが100万円全てを買った年に経費に計上できません。法廷耐用年数に準じた減価償却計算で数年に分けて経費に計上していく決まりになっています。

 

②貸借対照表
決算時に会計ソフトから貸借対照表を印刷して、期末現金がマイナスになっていた・・・。これは普通ではあり得ませんが、知識がなければ「おかしい」と思わずに見逃してしまいます。

 

③発生主義
現金が動く日ではなく、収支の事実が確定した時点で会計処理をすることですが、会計の原則はこの発生主義で処理をします。

たとえば、「11/18に消耗品1,000円をクレジットカードで購入しました。カードの決済日(引落し)は12/25です」となった場合、

 

11/18 消耗品を購入(未払金)
12/25 普通預金から未払金を決済


と面倒ですが2回に分けて会計処理をします。

上記のことをすんなりと理解するには、日商簿記3級程度の知識が必要です。もしも何を言っているのか意味不明な場合は、今から勉強してください。

2.実務で必要なフォーマットに慣れる

実際に事業を始めると、見積書、発注書、納品書、請求書、領収書などをもらったり、または自分で発行したりする機会があります。

 

その場で慌てないためにも、今からフォーマットなどを準備して、書き方も練習しておきましょう。

 

なお、フォーマットはインターネットから無料でダウンロードできますので、自分に合ったものを見つけてください。

中でも代表的な領収書について説明します。
領収書として必要な項目は以下の通りです。

①日付
発行した日付を入れます

②宛名
誰宛のものなのか明記します
③金額
④但し書き
⑤印紙
5万円以上であれば金額に応じた印紙を貼ります
⑥発行者住所氏名・印

 

正しい書き方をして相手に渡すのはビジネスのルールですので、領収書に限らず早めに慣れておきましょう。



第1回 簿記の知識と経営

創業者へのアンケートによると、開業前・開業時・開業後1年経過したすべての時点で、「不足していると感じる知識や能力は何ですか?」という問に、経理・会計税金の知識と回答した人は、顧客開拓や人事労務、人脈、ITよりもダントツで多いのです(日本政策金融公庫の調査結果より)。このように、不足している知識を事前に補い、起業してから慌てないためにも、経理と会計の知識を習得しましょう。

<今回のテーマ>

1.簿記の知識とは
簿記とは何でしょうか
どこまで必要でしょうか
2.経理をすることの意味
なぜ経理処理が重要なのでしょうか


1.簿記の知識とは

「簿記」とは何でしょうか?
イメージとしては、面倒で取っ付きにくい感じがしますが、言葉で表せばこうなります。

事業活動によって動いた「お金」や「商品」の流れを帳簿に記録していくこと。

 

別に難しいことをするのではありません。

何となく儲かっている
何となく損をしている

ではなく、感覚的な「何となく」の部分を誰でも共通に理解できるように「数値化」する作業のことです。

 

 

では、会社を経営する上で、募金知識はどこまで必要でしょうか?

会計ソフトを使えば、それほど必要ではありませんが、やはり最低限の知識は必要です。

 

なぜならば、事業活動を「お金」から正確に記録し、把握することが、経営にとって重要です。そして、正確に記録する作業に「簿記」の知識が必要となるのです。

2.経理をすることの意味

経理(をすることの)の意味は4つあります。
①正しい税金の計算
②損益状況を把握
③お金(資金)の過不足を把握
④財務状況からやるべきことを判断
この4つを正確かつ迅速に記録する必要があるのです。

 

①正しい税金の計算をする
個人事業主は1年間に発生した売上、経費などを計算して税務署に書類を提出します。これは自己申告ですので、正しい計算をしなければ、あとで面倒な手続きや余分な納税も発生する恐れがあります。

 

②損益状況を把握

「儲かっているハズなのに手元にお金がない」このように嘆く経営者は、会社の損益状況が正確に把握できていないからです。日々経理処理をしていれば、正確な損益状況が把握できます。

 

③お金(資金)の過不足を把握
一般的に季節変動や流行などの影響で、売上は一定ではありません。手元にお金がなくなってから慌てて資金手当てを考えるのではなく、早めにお金の過不足を把握する必要があります。

 

④財務状況からやるべきことを判断
手元にお金が無くなる前に資金を調達することもそうですが、逆に利益が多く手元に必要以上にお金がある場合、それをどう使うのかは経営者にとって重要な判断です。将来の投資のために留保しておく、新たな設備投資をする、借入金の早期返済に回すなど、財務状況を把握することによって、将来のために今何をすべきかを考える材料として経理処理をするのです。